地域に根付いて長く続くディカフェ専門店を目指して|大場 麻利子

地域に根付いて長く続くディカフェ専門店を目指して|大場 麻利子

    「本当においしいディカフェコーヒーを届けたい」

    私たちはそんな思いから、ローカルに根付くコーヒースタンドを目指しています。

    地域のコミュニティ、ディカフェのコーヒーを日常的に飲む方々、そして私たちメンバーの身近な方々…さまざまな「ローカル」のコミュニティに根付き、長く愛されるお店になりたい。そんな思いからこの連載をスタートしました。

    本企画では、私たちにとってローカルなみなさまとともに、ディカフェのある暮らしや、ひいては生活の豊かさについて考える場にしていきたいと思います。

    第一回目にご登場いただくのは、「de. coffee roasters」をご夫婦で立ち上げられた大場 麻利子さん。

    大場さんは2021年7月に「de. coffee roasters」をオープン。約2年の店舗運営を経て、新たな展開として株式会社Ansatzに店舗運営を引き継ぐという決断をされました。

    この対談では、大場さんの「de. coffee roasters」にかける思いや、ディカフェコーヒーの魅力、そして地域に根差した店づくりの秘訣などをお伺いします。

    聞き手は「de. coffee roasters」を受け継いだ株式会社Ansatzの古賀 裕人。ディカフェコーヒーが紡ぐ人々のつながりや、先代から受け継いだバトンをどのように未来へつなげていくのか。

    創業者と新たな経営者との対話を通じて、「de. coffee roasters」の過去、現在、そして未来への展望をお届けします。

    本当においしいディカフェコーヒーを目指して

    古賀:今日はよろしくお願いします。まずは「de. coffee roasters」をオープンした背景からお伺いできますか?

    大場さん(以下、敬称略): 夫がコーヒーのカフェインに耐性がなくて。紅茶やウーロン茶は飲めるんですけど、コーヒーだと体質的にダメなんです。

    彼が長年住んでいたアメリカでは、ディカフェが選択肢として大体あるんですよね。でも、コロナ禍で日本に帰国した時に、日本のカフェにはディカフェが全然なかったんです。

    そこで「本当においしいディカフェがないなら自分たちが作ればいい」と考えたことが始まりでした。

    古賀:すごい。起業家気質ですね。

    大場:夫はコーヒー業界は未経験だったんですが、近所に有名な焙煎所があったんです。まずはそこに弟子入りしようと考えたみたいでした。

    お店の方に声をかけて、お掃除とか小さなことから手伝うようになって。そうやって通っているうちに、弟子入りさせてもらえることになったんです。

    その後、夫が急に焙煎機と豆を買いだして、家で焙煎することになって。(笑)約20種類の豆の焙煎具合を調整して…コーヒー漬けの日々でした。その結果、出来上がったのが今の「【d.】/fullcity roast」と「【e.】/city roast」なんです。

    古賀:それめっちゃ面白いですね。未経験でもそうやって開業しようと考えたのがすごいです。

    大場:元々自分で事業をつくることが好きな人だからかもしれないですね。そこから、コロナもしばらく落ち着かないし、日本にしばらく住むつもりだったんですよ。そんな中、私も夫の影響で焙煎の面白さを知って、お店の展開を検討しはじめました。

    お店をつくるとなったら、まずは物件探しから。初期費用とランニングコストを抑えたかったのと、1人でも回せる規模感がよくて、小さい物件で探していました。たまたまここを見つけて来たら大家さんもいい方で、水天宮も近いから「ディカフェ」とも相性がいいしいいなと思って決めました。

    古賀:この物件とエリアをベースにして考えたんですね。

    大場:そうそう、無理せず続けていけるようにしたかったから、このサイズ感と家賃がちょうどよかったんです。

    新しい選択肢として“ディカフェのある暮らし”を

    古賀:実際にこのエリアで開業されてみてどうでしたか?

    大場:下町だから受け入れてもらえるかなと不安に思ってたんですけど、思った以上に近隣の方に面倒を見ていただいて。イメージと真逆でした。

    夫は地域行事にもよく参加してたんです。最初はお祭りでお神輿を担がないかと誘われて、最初は「いや、応援だけにしておきます」と言ってたんですけど。気づいたら出ることになってました(笑)

    でも、お祭りに参加したことで、知り合いが増えたので参加してよかったなと思います。他にも、地域の方と関係性を作るために、お掃除もよくしていました。ゴミ置き場が荒れていたら缶をうちで引き取ったり、落ち葉の掃除ついでに地域の方と話をしに行ったり、そういう努力はしていましたね。

    古賀:素晴らしいですね。当時、お客様はどんな方が多かったんですか?

    大場:8割はやっぱり近所の方々ですね。常連のお客様に支えられていました。

    残りの2割が新規の方です。新規の人はたまたま通りかかった方に加え、ディカフェを取り扱っているお店をインスタで探していらっしゃる方も多かったです。

    土日だとわざわざ遠くから来てくれる人が、1日に1人はいましたね。うちのお店を目的地に足を運んでいただいてありがたかったです。

    古賀:ディカフェ専門店って珍しいですもんね。大場さんにとって、ディカフェの魅力は何でしょうか?

    大場:私はコーヒーが好きで、朝昼晩と頻繁に飲んでいました。健康のために1日2杯までとか、夜は飲むなとか言われるじゃないですか。でも、飲みたいんですよね。

    だけど胃が弱いから、朝空腹でブラックを飲むとめちゃくちゃ気持ち悪くなるんです。でも仕事を頑張るためには飲まないとって感じで、謎の悪循環に陥ってました。

    そんな中で私もディカフェを飲むようになってみたら、もう気持ち悪くならないし、夜の食後にも飲めるし最高でした。それ以来ずっとディカフェオンリーです。

    古賀:僕も今はディカフェです。

    大場:知らない人も多いと思うんですけど、ディカフェって味は普通のコーヒーとほぼ一緒で結構おいしいんですよ。カフェインは抜いているけどポリフェノールは残っているから、消化を促す効果もある。食後に飲むのもすごくいいんです。こういうディカフェのいいところも、もっと広まったらいいなって思います。

    古賀:ディカフェも選択肢のひとつとして、ちゃんと提案できるといいですよね。

    大場:ディカフェを提案するとお客さんの反応も面白くて。「うちのコーヒーはディカフェなんです」とお話しすると、最初はネガティブな反応をされる方もいらっしゃいます。

    でもそんな時こそ腕の見せどころ。「味は全然変わらないんですよ」「おいしいからぜひ一度飲んでみてください」と伝えるんです。

    そうやって実際に飲んでもらうと、ほとんどの人が「変わらない、おいしいね」と驚かれますし、興味を持ってくれる方も多いんです。だからまずは1杯飲んでもらえるように努力はしてましたね。

    大切なのは“地域に根付いて長く続くこと”

    古賀:お店の譲渡を検討された理由も伺えますか。

    大場:海外への引っ越しですね。コロナが落ち着いて仕事が急に増えてきたんです。夫の会社はウエディングフォトが専門なので、結婚式が増えてくると仕事も増えるんです。

    それに加えて、ウエディング以外のお仕事の声もかかるようになってきて。そういう状況だったので、お店を畳むか譲渡するかを考えるようになりました。最終的にはできれば続けてもらえる方を見つけよう、と思い譲渡先を探し始めました。

    古賀:引き継ぎ先に弊社を選んでいただいて、ありがとうございます。これからもここは大事にしてほしい、変わらないでいてほしいと思う部分はありますか?

    大場:夫が大切にしていたのは、地域の人たちとのつながり。みなさん本当にいい方ばかりだから、地域に根付いて長く続くお店になったらいいなって。

    やっぱり、最初に支えてくれたのは近所の人たちなんですよ。だから、そこをベースにして広げていく方がいいんじゃないかって。お店を大きくすることよりも、地域に愛されるお店であり続けることの方が大切なんだなって。

    新しいお客さんも大歓迎だけど、古くからの顔なじみも大切にしたいんです。そうやってバランスを取りながら、この町の一員として成長していけたらいいなと思っています。

    古賀:ほんと、いい町だと思いますし、長く続くお店にしたいと思ってます。

    大場:あとは、ディカフェをもっと広めたいという思いが原点にあるのでそこも大事にしたいです。こうして少しずつディカフェ専門店が認知されてきているのは、私たちにとっても嬉しいことなので。これからもっと広まっていくといいなと思いますね。

    あとがき

    20代の頃、いつか落ち着いたらコーヒー屋さんを開きたいなと憧れていましたが、この半年間はその頃の自分が想像もできなかったような日々でした。

    大場さんが心を込めて続けてこられたお店だからこそ、「de. coffee roasters」という名前を大切にしつつ、さらに進化させていきたいと思います。

    バトンを引き継いで、長く愛されるお店を目指していきたいと改めて感じました。

    古賀 裕人


    取材:古賀 裕人、横尾 あやめ
    執筆:とみこ

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